私はコピーライターをしていたが、時には人のところに取材に出かけた。
若い彼女たちの中に、昔の私を見ることがある。
こうしたフリーライターの女性たちのうち、4割ぐらいは、Hなんか何さ、とつっぱっている。
肩をそびやかしてこちらに敵意をあからさまにしているから面白い。
自惚れと言われることを覚悟で言えば、後の6割ぐらいは、まあそれなりに私に対して憧れめいた気持ちを持っているのではないだろうか。
売れないコピーライターから直木賞作家になる、というのは、文章を生業にする女の子にとって、確かにわかりやすいサクセスストーリー彼女もそんな女の子のひとりだったようであった。
今日、Hさんにおめにかかれると思うと、嬉しくって嬉しくって胸がドキドキしちゃってる。
彼女は私に聞いた。
今の時代、女はどうやって生きていったらいいのか。
女にとってサクセスとは何なんでしょうか。
私はそりやあ、親切に答えてあげた。
私は何だかんだといっても、基本的には女性にやさしい。
特に頑張っている女性には、何かしてあげたいと思うところがある。
私はうんと心をうち明け、女の野心ということについてこと細かく説明してあげた。
「あのね、女は平地にいるうちは何も見えてこない。
そういう人生しか知らない。
だけど階段を上り始めると、もっと上があることがわかってくる。
すごくつらい。
もう降りようと思って平地を見る。
だけどもうあのフラットな場所には戻りたくなくなってくる。
だから歯を食いしばって上に上らなきゃならなくなるの。
すごくつらいし、苦しいわよ。
だけどこれが野心っていうものなのよ」彼女は「なるほど」と何度も領いていたものである。
ところが出来上がってきた原稿を見て、私は本当に腹が立った。
赤ペンを入れて直す、というレベルのものではないのだ。
文章もヘタなら、私の言っていることをほとんど理解もしていない。
それよりももっと重要なことは、私の小説の主人公の名前さえ間違っていたのである。
このレベルの文章で、彼女がフリーライターをやっていることさえ不思議だ。
私は忙しいのに、レイアウトの文字数を計算し、全部インタビュー記事を書き直した。
そして間に立った人にファクシミリを送った。
「これはプロの仕事ではありませんと、書いた人に伝えてください」私は悔しかった。
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